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 何しろ男を品定めする旅なのだ、すべり出しでヒルんではならぬと、私はグイとのみ干して盃を返した。  と、うしろの襖がするするとあいて、突如、開店祝いの花輪の牡丹みたいな派手やかなおかみさんが二人の間に割り込み、 「ヒヤァ、部長、お久しぶりィ、元気かや?」  私には目もくれず向かい側の男性に叫びかけた。部長、つまりさし向かいの男性は、新聞社の政経部長殿である。彼は威勢のいい牡丹に対し、 「え、いや、まあ、おかげさんで……」  初対面の私と、なじみのおかみさんとの間で態度が決らない。 「ここのおかみとは古いつき合いでねえ。この人、昔、芸者をしとったんです。えらいよなァ。今や堂々たる女あるじだもんなァ」 「愛丸」という屋号は、お座敷に出ていた頃の名前だろう。いも焼酎で目もとのトロンとしはじめた部長氏は「野口英世か愛丸か」といわんばかりに当代の英雄、愛丸姐さんに崇拝のまなざしを送っている。そういえば玄関を入ったすぐわきに、かつての愛丸姐さんご愛用の人力車が、赤い毛布つきで飾ってあった。 「だからさァ、部長。うちの妓を一ペん新聞に出してよォ。ホレ、あのとっときの人力車の上にのせて、写真一枚撮ってよォ。あたしゃ、欲や得でこんなこといってんじゃないの。郷土発展のために……」  愛丸姐さんの声はお酒の年季が入っている。ハスキーな声をハリ上げ、白地に紫の花もようの、あでやかなりんずをまとい、一きわ声高く「郷土愛」を力説したが、よく聞いてみるとなるほど 一理ある。  鹿児島市というのは不思議なところで、芸者が一人もいないのだそうだ。こんなことだから九州といえば長崎、博多にお株をとられてしまうんだと、姐さんは一念発起し、愛丸専属の芸者を養成して今や四人の妓を育て上げたというのである。  カリン糖と唐獅子の勝負 「ンだから部長、とにかく一目見てよォ」 「しかし、わしゃ政経部長だで、この話は市の観光課の方が……」  そりゃ分っトル、けど観光課は観光課、アンタはアンタ、とか何とかいいながら、おかみはそそくさと姿を消した。  目の前には出来たてのさつま揚げが、かご盛りになっている。つき出しは鹿児島名産のきびなごの卯の花あえだ。
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