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 彼は、忽ち頬が熱っぽくなるのを憶えたが、おかしなことに、そういったヒデの方もみるみる顔を赤らめた。彼は、なんとなくどぎまぎしたが、正直いって、そう悪い気はしなかった。 「なあに、お|前《め》だって。」と彼はいった。「町で二、三年も暮らせば、いい女になるよ。」  栗をつづけさまに三つ四つ食って、ふとみると、ヒデは窓に|靠《もた》れるようにして海の方を眺めている。ヒデは、もう笑ってはいなかった。頬の赤みもいつのまにか消えていて、代りに、これまでみたことのない陰鬱な|翳《かげ》りがその横顔を浸していた。彼は、なにかしら胸がどきりとした。 「……どうしたんだ。栗はもう食わんのか?」 「栗は、もうええ。」  ヒデは海に目を細めたままそういって、それから、「町か……。」と呟いた。  彼は、俺はいけないことをいったと気がついた。村の家で、足枷を嵌められたようにして暮らしている年頃の娘に、『町で二、三年も暮らせば……』とは、酷なことをいったものだ。けれども、それかといって、おまえはおふくろの看病をしながら村に埋もれてしまう女なのだと決め込むようなことは、とてもいえない。 「なあに、そのうち町へ出てこられるさ。|諦《あきら》めちゃいけねえな。じっと辛抱するこった。」  彼は、そういいながら、そんなことは気休めだといってヒデが怒るかもしれないと思っていた。ところが、ヒデは全く別なことをいった。 「|母《かつ》ちゃが死ぬのを、待てというの?」  彼は、ちいさく息を呑んだが、それきり口を|噤《つぐ》んでしまった。それから二人は随分長いこと黙っていた。     六  夕方近く、良作は気分直しにヒデを浜歩きに連れ出した。べつにこれといった名所もない、寒々しいばかりの北国の浜だが、海そのものが珍しいヒデの気持を引き立てるには、ちょっと効き目がありすぎるほどの散歩になった。ヒデは、砂浜でちいさな貝殻を拾ったり、|渚《なぎさ》で砕けた波の舌と戯れたり、濡れた砂に棒切れで絵や文字を書いたり——このあたりの子供なら五つになればもうしないような、そんな幼稚な遊びを飽きもせずに繰り返した。  彼は、そんなヒデをみていて、ほっとすると同時に、妹を哀れに思う気持が一層募るのをおぼえた。俺がしっかり働かねば、と彼は思った。しっかり働いて、いつかはこの妹とおふくろを町へ呼ばねば。
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